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Infoseek 喨涓截

VOL20   不揃いなガイドたち
―素敵なおまわりさん


十勝川温泉の笹○ホテルの玄関を出てまっすぐ50メートルほど行った所に、昔○○○○というスナックがあって、ここに一時ガイドがよく集まった時期がありました。
といっても翌日の仕事のことを考えると、そんなに夜更かしも出来ないのですが、なんと行っても十勝川温泉は旅の中間地点でしたので十勝川にいったらここに顔を出すのが癖のようになったのです。
札幌から来たときは、明日から本格的な観光地めぐり頑張るぞ!と英気を養い。明日道南に向かうときは、後もう少しだ頑張るぞ!と自分に活を入れる。ガイド同士がそれぞれ自分が通ってきた観光地の情報交換の場でもありました。
「網走の□□□、食事のかにがひどくって、お客様からクレームついていたよ!」
「あ〜、あさって私たちそこなんだわ。」
「さりげなく言っておいたほうがいいよ。」
「知床五湖の遊歩道、水出て今危ないわよ。」
「がっちり注意しておかないと、足滑らせる人いるから。」
「オシンコシン、上らせるのは、今水多くて危ないから止めさせたほうがいいよ。」
「あ、うちのお客様も転んでひどいことになっちゃったよ。怪我はなかったけどびしょびしょ」
こんな具合です。 刻一刻と変わっていく観光地の情報が若干のエピソードと共にやりとりされ、それによって次の行程の組み立てが変化したり、場合によっては添乗員さんにお願いして行程の変更などもお願いをすることもある。
ここはガイドの安らぎの場であると共にビジネスの情報を蓄積するロビーであり、聖域でもあった。もちろん普通のお客様も来ることは来るのだが、運転士さんも遠慮してるし添乗員さんには申し訳ないが誰も教えない。勢いお客はほとんどガイドで男の客など滅多に見ない。それがまたゆったりとした気持ちにさせる場所だった。
その夜は不思議に男の二人ずれのお客さんがいた。
通常だと男の客は居心地が悪くてすぐいなくなるのだが、その客はしぶとかった。どんな客かというと、頭を角刈りにした年のころ40代前半位の人のよさそうなおっさんと、もう一人は20代後半の人の悪そうなあんちゃんだった。みると人の良さそうなおっさんが人の悪そうなアンちゃんに説教している。人の悪そうなアンちゃんは、カウンターの椅子に座っているのだが何故か正座しているように見えた。
その周囲1メートル以内にはバリヤーが張られていて、結構回りは緊張していた。大体いつも女しか客がこないような店に一見の客が男の二人ずれで現れて、説教かましているのだから逆にこっちが居心地が悪い。知り合いの○○バスのガイドが帰った。 マスターが「すまないね△△ちゃん、また来てね」とお愛想していた。
「ふざけんじゃねえぞ!」
急にでかい声が上がった。
人の良さそうなおっさんが、声を張り上げて怒っている。怒っている姿は全然人が良くは見えなかった。人が悪そうに見えたアンちゃんは下を向いていた。
「あんた、うるさいよ!」
私は我慢が出来なかった。
「それでなくともあんたがたのおかげで、他の客が居心地が悪くて帰っているんだ。説教ならほかでやってくれよ、ここは遊びに来る場所で学校じゃ無いんだ!」
「なんだとう!」
あわてて、人の悪そうなアンちゃんが割って入った。
「西塔さん、いけません。私が悪いんですから。」
「こんな娘ッ子に何がわかる?」
「でかい声あげるんなら帰れ!」
「ふざけるなよ!」
人のいいおっさんは、酒乱のオヤジに変身した。幾ばくかの悪口雑言の応酬の後、オヤジは切れて立ち上がりそうになったとき。
「マスター警察呼んで!」
この一言でけりがついた。人の悪そうに見えてその実すごくいい奴だった若いのは、人の良さそうに見えてその実とんでもない酒乱のオヤジを押さえると勘定をして出て行った。慌てていたから1万円札をだして、お釣りは良いからと言ってとにかく出て行った。
彼らが帰ってからマスターは「あのお客様からのおごりだ。」といってビールを出してくれた。そうではないことは分かっていたが、栓を開けたビールは飲んでしまわないとマスターが迷惑するし、作ってくれたビール会社の人に失礼なので、飲んだ。
翌日は十勝川から千代田堰堤の鮭の捕獲を見て、池田のワイン城を見学、松山千春の家なぞちょっと覗いて阿寒湖に向かおうという行程だった。
ワイン城を出発して足寄に向かう途中、お客様の一人が具合が悪くなった。10歳ぐらいの男の子で、昨晩から異常な食欲を見せ、今朝も信じられないくらい朝のバイキングを食べていて、どうやら食べすぎではないかと母親が言う。
「痛いよう!痛いよう!」と腹痛を訴える子供に母親はうろたえるばかり。
昼食を予定していた足寄まで走るか、帯広方面に戻るか添乗員さんと相談したが、足寄にも病院はあるのでとにかく病院まで飛ばそうということになった。 運転士のSさんも、猛然と走り始める。普段は安全運転の運転士さんたちだが、本気で走り始めたら、バスを操ってカーレーサー並みの腕なのは恐れ入る。
足寄の町までもうすぐだという時、いきなり「フィーン!」という音がした。
「いかん!」運転士のSさんバスを路肩に止める。
どうしたの急いでいかないと、子供は痛みを訴えてるのよ!
Sさんはバスを止めると、降りていった。お客さんたちも不安そうに何が起こったのかと周囲を見渡した。 すぐ後ろにセドリックがいた。車の屋根の上にくるくる回る憎たらしい赤いランプをつけて。
「大変だァ!覆面パトカーだよ!」
「スピード違反でつかまったったんだ。」
「どうしよう?早く病院行かないと!」
私は意を決してバスを降りた。お巡りさんだって訳を話せば、分かってくれるだろう。分からなければ、実力行使してでも病院に行こう。こういう場合は超法規的措置で罪にならないと何かで読んだ気がする。あ、いや、そうだといいなあと思うだけだが。
後ろの覆面パトカーに近づくと、話し声が聞こえた。
「そんなことが言い訳になるわけ無いでしょう。人の命を預かるバスの運転士さんが、そんな事を言ってちゃ困るんだよ。」
私は目が点に成った!その覆面に乗っているお巡りさんは、昨晩の酒乱オヤジと人が悪そうに見えた人の良いアンちゃんだった。
どうしよう!昨晩のことを考えると、相当心象悪いぞ!ひょっとしたら手錠かけられて連行されちゃうかもしれない。しかし、今はそんなこといっている場合じゃない!
「すみません!」 パトカーの中に声を掛けた。お巡りさんは振り向いて私の顔を見るなり。
「あーっ!昨晩の!」 いかん、やっぱり覚えていた。
「昨晩のことはどうとでも謝ります。今、子供がお腹が痛いって泣いているんです。どうか行かせて下さい。」
酒乱オヤジは運転士さんの方をむいたまま。
「あんただれ?」といった。
「このバスのガイドです。」
「悪いが引っ込んでてもらおう。」
まずい、きっと根に持っている!
「昨晩のことは本当にすみません。ですから、あの・・・」
「昨晩?何の話をしているんだい?私はあんたに今始めて会ったんだよ。」
畜生、とぼけてしかとする気だ!とんでもない奴だ!不良お廻りだ!悪徳警官だ!
っと言おうとした瞬間、前の座席にいたアンちゃんが言った。
「西塔さん!足寄の病院、連絡取れました!」
酒乱オヤジの顔つきが変わった。
「よし、救急車は間に合わないから、パトカーで運ぶといえ!」
「了解しました!」
「ガイドさん、子供と誰か付き添いをパトカーに連れて来なさい。病院の連絡はもう取れているから。バスは安全運転で、ゆっくり病院に来なさい。病院の名前は運転士さんに話してある。」
私はぽかんとしてしまった。
「早くしなさい!」
「はい!」
私は飛び上がらんばかりにしてバスに戻った。
パトカーはサイレンを鳴らしながら、足寄方向にぶっ飛ばしていた。
酒乱オヤジはやっぱり人の良いオヤジだった。
足寄の病院にバスがつくと、アンちゃんがパトカーのところで待っていた。どうやら単なる食べ過ぎのようだが念のため検査をしているとのことだった。添乗員さんがお客様に説明をして、行程は時間がずれ込むがカットせずに行うのでこのまま病院で待つことになった。お客様は足寄の街中に三々五々出かけていった。松山千春御殿もあることだし時間をつぶすぐらい大丈夫だよと、皆快く了承してくれた。
アンちゃんはニコニコして「大事でなくて良かったですね。」と言った。
昨晩のことを謝ると、「いやこちらこそ迷惑掛けてすみません。みんな自分が悪いんですよ。」と言った。
「あの方いつもああやって説教するんですか?」
「いえ、昨夜は話が話だったもんで、いつもの店だと誰かに聞かれるとまずいと思い、知らない店に入ったんですが。とんだとこ見られちゃいましたね。」
「なんかすごい剣幕でしたね。」
「皆、自分が悪いんです。」
「なんかしたんですか。」
「いえ、あの、実は自分は西塔さんに了解を得る前に、西塔さんの娘さんと結婚の約束をしてしまいまして。」
「えーっ!それで反対していたんですか?」
「いや、反対ではなかったんですが・・・」
「じゃあ、なんです?」
「お恥ずかしい話しですが、早く式を挙げないと、子供が出来てしまうんで。」
「やだあ、そんなの作らないようにうまくやればいいじゃない。」
「いえ、そうではなくて、もう製造過程は修了していまして、つまり完成品が出てくるばかり・・・」
「それって、もうおめでたなの?」
「面目ありません!」
そりゃあおこるわ!父親の怒りが爆発した場所に私はいてしまったわけだった。 その怒りの父親が病院の玄関からとことこと出てきた。
「昨夜と言い、先程と言い、大変失礼ばかりすみませんでした。」
「おや、ガイドさん!私はさっきも言ったけど、私は今日始めてガイドさんに会ったんですよ。昨晩のお話はなにかの間違いでしょう。でもどんな間違いなのか、時間があったらお茶でも飲みながらお話しませんか、私たち少しの間病院で待機になりましたので時間が空きます。よかったら、このくそったれのトウヘンボクの話も聞いてもらいたいんですよ。」
トウヘンボクと呼ばれたアンちゃんは、こっちをむいてにっと笑った。


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